こんにちは。宮本です。

たまには怖い話でも。

私の知り合いの、昔の彼女の話ですが、相当に鋭い感覚を持っていたそうです。
聞いた話を備忘録として書いていきます。
特定されてもいけませんので、多少のフィクションも混ぜていきます。



その彼女、小田原の人なんですが、当時、車の免許を取ったばかりで、あちこち走り回るのが楽しくて、お買い物やら家族のお迎えやら、自分から進んでいくような人だったんだそうです。

あるとき、何かの用事で小田原に来たとき、用があるところに行きたいのに、なぜか藤棚のとなりの、報徳二宮神社に来てしまうということがあったんだそうです。
道は知っているんですよね。
初めてじゃないし、当然、小田原市民だし。

最初は「あ、二宮神社だ。ここじゃないよね」と思って、また用のある場所へ向かうのですが、2度目に来た時には「あれ、おかしいなあ」と。
3度目には、もう恐ろしくなって、用も忘れて帰宅したそうです。

そんな彼女、よく見える人だったみたいです。
誰だって犬が変なところを見て無駄吠えしているようにしか見えないのに、ちゃんと「あそこに男の人が来たから吠えてるんだ」とわかっていたり、彼女は自宅で寝ていたのに、その時間に別の場所で複数の人と会っていたり、姪が誤って洗濯機に落ちてしまったのを遠隔地から気付いて、すぐに姉に電話して姪を助けさせたりと、ちょっと異能の持ち主だったようです。

本人は、ちょっと抜けてるのか、それがいかにヤバいことなのか気付いていなかったようで。



その彼女と彼氏、クリスマスの直前だったか、年末の寒い時期、ま、夜中、デートしてたんですね。
酒匂のインターのところ、海に車で入っていけるじゃないですか。
ガードの下あたりに車留めて。

真っ暗ですよ。
たまに上の西湘バイパスを通る車の音が、道路のつなぎ目でタタン・タタン・・・とかしててね。
ここだと波の音は少なくて。
目の前は真っ暗な酒匂川。

「お友達のお母さんが、ここで自殺しちゃってね」
なんて話を聞いたそうです。

他にもなんか話してたんでしょうね。
ま、話なんか全然しなくったってね。一緒にいればね。
そのうち我慢できなくなってね。
ま、そういう流れですよ。
健全な若者ですよ。

「はあぁ」なんて車の天井のほう見てたら、ヴ〜って携帯が鳴ってね。彼氏の。
「こんなところでも電波つながるんだー」なんてね。
まだ電話に出られる状態だったんですね。

今はつながらないところなんてほとんどないですけどね。
その頃はそんなことありませんから。
酒匂をバカにしてるわけじゃないんですよ。
マクドナルドあたりならバリ3だったんですから。
ま、ガードの下ってことでね。

その電話の相手っていうのが、二人の共通の知り合い、Sさんだったんですね。
先に彼女のほうに連絡入れたんですが、電波がつながらなくて、彼氏のほうに入れたんだって。
ま、一緒にいるだろうなっていうのは、Sさんにもわかってたみたいで。
まあ仕事がなければいつでも一緒にいるような、有名なカップルでしたから。

電話の内容は、これから湘南地区の、とある遊技場に行くから、二人でおいでってことのお誘いだったんですね。 

Sさん、その二人とは、とても仲の良い人でね。
楽しい人だし、ちょっとお金持ちで、よく食事なんか奢ってもらえるような、気前のいい、ちょっと年上の人でね。
そのSさんも、二人で行ってるんだと。
食事なんて奢ってもらえれば、ラッキーですもんね。
二人ともまだ若いから、貧乏でしたから。

遊技場は、朝までやってるようなところでね。
明け方でも結構流行っててね。
地元のちょっと悪いのとか、暇な学生なんかが集まるような。

「お、やった」と。 
ちょっといつもより時間かかり過ぎちゃったし。 
窮屈ですから。
あんまり疲れさせちゃっても。
そういうところ、優しい男だったんですよ。

ズボン直してね、向かったんだそうですよ。 
ま、後で続きをしようってことで。
そのままぐるっと、西湘バイパス乗って行ったんですね。 




ま、彼氏さんは、わりとルンルンですよね。
でも、なーんか、彼女さんの表情が、さっきより浮かない感じで。
下向いて、どよーん、としちゃってる。

「あれ? どしたー?」なんて聞いても、下向いたり、ぎゅっと目をつぶったり。

そしたら急に彼氏の左腕にしがみついてきたんだそうですよ。 
ぎゅーっと。
危ないですよね。結構なスピード、出ちゃってますから。

「どうしたお前?」って思う反面、彼女の髪からいい匂いするしで。
さっきは途中まででしたから。
運転中なのに、もう続きをしたいのかなーなんて思っちゃったかも知れませんね。

うっとりした声でどうしたのって声かけたら、「後ろに誰か乗ってる」って。

普通、助手席からはミラーで後ろなんて見えないんですけどね。
「ミラーに映ってる」って。
「彼氏君を見てる。怖い顔して」って言うんですよ。

「えっ!」て、後ろを見ても、当然誰もいない。

彼氏さんは見えない人ですから。
チラチラとミラーで見ても、何にも見えない。
映ってるのは、通り過ぎてく道路と、はるか向こうの車の照明だけ。

「何もないよ。安心して。俺、ここにちゃんといるから」って、ちょっと落ち着かせたら、「あ、もういなくなってる」と。
手を握ってあげて、落ち着かせようとしたんだそうですよ。 

ま、そういう体質なの、知ってますからね。
もう、慣れてるってほどじゃないけど、免疫みたいのはあって。
「あ、あれか」みたいなね。

女のコに、ちょっと優しいところ見せてあげようなんて、ま、若い頃はそんなこと、考えるもんですよ。

まだ、余裕もあったんですね。
でも、ちょっとしたら、また彼女が「ひっ」と叫んでガタガタ震えだしちゃった。 

「また、後ろにいるの?」と聞くと、そうでなく、今度は、何か、得体の知れないものが、カーエアコンのスイッチとかがあるパネル。あのパネルの前でふわふわ浮いてるんだって言うんですよ。

「何これ! 何? 気持ち悪い!」って言って彼氏の手を握ったまま、ぎゅーってしがみついてきたんだそうです。 

彼氏さんには見えませんが、そのあたりを手で払ったり、出ていけだのなんだの、叫んでね。 

すると、そのふわふわは消えたんだそうですが、彼女さん、かなりパニック状態になってしまったんだそうです。 

ま、それでも彼氏さんには見えてませんから。
大丈夫だよ、今度来たらまた追っ払ってやるなんて声かけて、落ち着かせてたんですね。

しばらく走って、何だったんだろうねーなんて話せるくらいまで落ち着いたんですが、今度はとうとう彼氏さんにもわかる異変が出ましてね。

さっきから握ってる彼女の手が、小さくて柔らかい可愛らしい手が、ごつごつして、大きな手に思えて仕方ない。

後ろから彼氏さんを見ていたのはおじいさんだったと。
さっき彼女さんから聞いたことを思い出しちゃった。

彼にも、彼のお祖父さんの記憶がありましたから。
もう数年前に亡くなってますが。
病院で最後に握った、あの、いわゆる老人の手ってやつの感触を思い出しちゃった。

もうこの感触、さっきまで自分を愛撫してくれた、あの手とは思えない。

さすがに見るのは怖い。でも確かめないと。
胸のあたりで祈るように握りしめていて、髪も長いから隠れちゃってますから、その手がこちらからは見えないんですね。 

車、止められないんですよ。
それこそ怖くて。

どうしようかなー、気持ち悪いなーと思ってるうち、手汗もすごいことになっちゃってね。

もう、耐えられなくて、「それ、ほんとにお前の手?」と聞いてしまったんだそうです。
くっついてた彼女は飛び退いて、助手席のドアにぶつかるようにして彼氏さんから離れて、「嫌ーっ!」って大泣き状態になってしまったそうです。 

そんなこんなで平塚に到着して、一般道になったころにはもう何もなく、相模川を渡ることが出来たんですね。

さすがにお互い無言になっちゃってね。

向かう場所は1号線沿い。
湘南大橋を渡ったら、すぐに左へ曲がるんですね。 

でも、彼氏も相当に神経をすり減らしたのでしょう。
ぼーっとして、まっすぐ、134号線を進んでっちゃった。

しばらく走って、気付いたんですね。道を間違ってしまったことを。
で、途中から、左に入ったんですね。
こんな道知らないのに。細い道を。 

ある程度、信号があるような交差点から入れば、なんだかんだぐちゃぐちゃ走っても、線路を超えて1号線まで出られそうなものですけどね。 

でも、それをしなかった。
行けると思っちゃったんでしょうね。 
それとも、出来なかったんでしょうかね。 

134号線から、早く離れたかったのかな。
茅ヶ崎か辻堂か、駅で言えばそのあたりでしょうね。

やっぱり道を知りませんから、あっちをぐるぐる、こっちをぐるぐる、もう30分くらいやってる。
道の狭い住宅地で、あまり特徴ありませんからね。 

特徴があるって言えば、ちょっと派手にイルミネーションやってる、この家くらい。
もう日付は変わってますから、住宅地でも真っ暗なんですね。

今はクリスマスのとき、イルミネーションに力を入れてる家なんか多いですけどね。
当時はまだ少なくてね。
すでに、そんなに珍しいものではなかったですが、まだ今ほど浸透してなくてね。

さっきからあちこち走ってるんですが、何故か、同じイルミネーションのお家に。 
「あれ、この家、さっきから何度も見てるような」ってね。

これには彼女も気付きました。
どう走っても報徳二宮神社に行きついてしまった、あの時と同じだと。

その家、表札がありましたからね。
次は間違わないように、名前覚えとこうってね。
車を停めて、外に出たんですよ。

「〇〇さん。」ちゃんと覚えてね。
車に戻ろうとした。

そしたら車の影に、何かの石碑があるんですね。
イルミネーションの家の反対側。
イルミネーションに気を取られて、石碑にはずっと気が付かなかったんですね。
道祖神なのか古いお地蔵さんなのか。 

ま、道祖神とかお地蔵さんなんて、昼間に見たってなんとも思いませんけどね。
こんなときだと、もう疑心暗鬼みたいになっちゃってね。

「ここに呼ばれたのか!」って。

早く立ち去らないと。
なんとか落ち着かせて、まっすぐ走ったそうですよ。
来たほうに向かって。 

そして、程なく、あの、入ってきた細い道から、134号線に出られたそうですよ。
134号線から数十メートルの位置で、ぐるぐるぐるぐる、ずーっと走り回っていたんですね。 

もう、市内を抜けて行こうとは考えず、わかりやすい、広い道から向かおうとしたそうです。
かなり遠回りですが、意識さえしっかりしてれば、絶対に間違わないからってことで。

そこまで徹底しましたから、ちゃんと近くまで行けたそうです。 
1号線はスイスイ通れてね。

ちょっと安心したでしょうね。
さっきよりもだいぶ落ち着いて、雰囲気も良くなって。
「もうちょっとだね」なんて話してたんだと思いますよ。

でも、まだ異変は続いてたんです。

丁度、県道と交わるような大きな交差点まで来ました。
で、その交差点の真ん中あたり。
急に、右から真っ赤な消防車がグワーッと突っ込んできちゃった。

「うわーーっ!」
お互い、車体が傾くほどの急ハンドルでかわす。
間一髪、衝突は免れたんですね。

ブレーキじゃ間に合わないような距離だったのに、なぜか掠りもしなかったそうです。

サイレンでも聞こえてれば、ちゃんと注意して交差点に入ったんだと思いますよ。
でも、なんにも聞こえず、回転灯にも気付かなかったそうです。

九死に一生を得た安堵よりも、恐ろしい現象が数々降りかかってくることに、二人はもう、限界に達してしまいました。

目的地まであと数キロというところでしたけどね。

彼氏は顔面蒼白、彼女は鼻水までたらして大泣き。

でも止まったりせず、惰性みたいな感じで走っちゃってるんですね。 

もう、なんかの力で、引っ張られるようなもんでしょうかね。

そしてやっとたどり着きましたが、待っていたSさん達が心配するほど真っ青な顔しちゃってたそうです。
酒匂からにしては、やけに時間がかかってるし。

「ちょっと、いろいろあって・・・」なんて言い訳してましたけど、Sさんは「ケンカでもした?(笑)」なんて言って、深くは聞かなかったみたいですね。

何から話していいものか、もう、彼氏さんだって、思い出したくもないだろうし。

一応、明るいところにきて、知り合いにも会えたので、少しはほっとしたのでしょう。
彼女さん、トイレに行ったんですね。

その遊技場は建物の2階にあって、トイレは1階なんですね。
何にも言わず、階段のほうにふらふらーっと行ってしまったので、彼氏さんはなんとなく心配で、追いかけて行ったら、彼女さんが女性用のトイレに入っていくのが見えた。
で、ちょっと心配だったんでしょうね。
出口で待つことにした。

さっきは凄いことが続いちゃったなあ、とうとう自分にも、なんか起きちゃったなあ、なんて思って待ってたそうですよ。

しかし5分経っても、10分経っても、彼女さんは出て来ない。
一向に、出てこない。
控えめに声をかけても、返事もなく。

ああ、中で、疲れて寝てるんだろうなーと思い、女子トイレで、ちょっと野暮ですが、入っていったんですね。 

さすがに風邪ひいちゃいますから。
ちょっとわくわくしてたかも知れませんね。 
まださっきの、後で続きしようって約束、覚えてたんでしょうかね。

最初は「おーい」なんて言いながら入っていったんですが、ちょっとおかしい。
トイレの中は、すべての扉が開いちゃってる。
当然、誰もいない。
あれーっと思って隅々まで探したんですが、何も人の気配がない。 

外に出られるような窓もない。
だって、ここに入るの、自分の目で確認してるんですよ。

急いでSさんのところに戻って、一緒に探してくれるように頼んで、みんなでトイレのある1階に降りようとしたところ、彼女がひょいっと戻ってきたんですね。 

「今までどこにいってたの?」と聞いても、「え?トイレ行ってただけだけど」としか。
「そんな、長い時間いないよー。2~3分しかたってないんじゃない?」と。

だって、トイレ、そこしかないでしょ?
中にいなかったじゃんと。

彼氏さんだけ、おかしなことを言ってるようなことになっちゃった。

もう20分以上行方不明だったこと、トイレまで探しに行ったけど誰もいなかったことを伝えると、それはおかしいと。
自分を呼ぶ声もしなかったし、誰も入ってこなかったと。

じゃあ、まださっきの怖いのが続いちゃってるのかなぁなんて、Sさんにも今までのことを話したんですね。

そしたら彼女さん、西湘バイパスに乗ってから、さっきトイレから出てくるまでの記憶が抜けちゃってた。

おじいさんに見られてたことから消防車と事故を起こしそうになったことまで話したら、彼女さん、「え? そうなの?」と。

トイレから出てきたら彼氏さんやSさん達がいたんだと。

自分がトイレから出て来て、なぜか心配されてるから、それは時間が長かったから責められているんだな、と思ったんだって言うんですね。
とっさに2〜3分なんて言ったけど、本当はトイレに入った記憶もないし、ここにいるのも、車の中で寝てしまい、彼氏さんにここまで連れて来てもらったからだって思っていたと。

で、トイレから出てくるまで、自分は寝ぼけてたんだろうぐらいに思ってたって言うんですよ。

Sさんはなんのことだかさっぱりわからないようで、二人がおクスリでもキメちゃってるんだな、と思ったそうです。

彼女さんは、こういうのが初めてじゃなかったみたいで、「寝てるとき、あたしに変なことしてないでしょうね?(笑)」なんて言ってたみたいですが、彼氏さんは戦慄したそうですね。

色々、辻褄が合わなすぎるんですね。

結局、朝まで何にもせずにそこにいて、明るくなってからみんなで帰ったそうです。

帰り道はどうだったんでしょうね。
その後二人は、どうなったんでしょうね。
不思議な話でしたね。